「言わなくても察してよ」は人間関係の末期症状です。

カウンセリング「大人の学校」

「言わなくてもわかってよ」

この一言に、人間関係の多くの歪みが凝縮されていると言っても過言ではありません。

私たちは、つい近しい関係の人に対して、
言葉に出さずとも自分の気持ちや状況を理解してくれることを期待してしまいます。
しかし、これは非常に危険な思考の罠です。

なぜなら、自分と相手は完全に別の人間であり、
相手の心をコントロールすることなど誰にもできないからです。
※ここでいうコントロールは、相手が自分の気持ちを理解するという意味です。

それは、家族であろうと、職場の部下であろうと同じです。

コントロールできない相手に対して、
「これをさせなきゃ」
「あれをさせなきゃ」
「なぜ、こんなこともできないんだ」
「どうして、これをやっていないんだ」
「なんで、こんなことをするんだ」、
さらには「なんで、これをしてくれないの?」と心の中で責め立てる。

その究極の形が「何も言わなくても気付いてよ」という願望です。

まるで魔法使いかエスパーであるかのように、
相手が自分の思考や感情を瞬時に理解してくれることを望む。

しかし、現実はそうではありません。
相手はあなたではないのですから、
あなたの頭の中を覗き見ることはできません。


「察してコミュニケーション」という幻想

「家族だから気付いて」「親だから」「妻だから夫だから、私の気持ちを見て察して」といったコミュニケーションを理想としてしまう。
ここに不幸の 原因(たね)が潜んでいます。

長年寄り添った夫婦がお互いの様子を見て、言葉なくともそっとお茶を出す。
それは美しい日常の一コマではありますが、
朝から晩まですべてがそれで成り立つわけではありません。

私たちは、ドラマのワンシーンや理想化されたイメージに刷り込まれ、
「察してくれるパートナーこそ理想だ」と思い込んでしまうことがあります。

しかし、現実はそうではないことに直面した時、
大きな不満や怒りを感じてしまうのです。
※その逆もしかり、自分が相手の気持ちを察してあげられないから
 自分はダメだと自分を責めてしまう。

それは、お客様とお店のスタッフの関係でも同じです。
「お店のスタッフなら、これくらい気付いて当たり前だ」という期待は、
相手との間に明確な線引きができていない証拠です。
※執着ですね。

自分と相手の境界線が曖昧なままだと、
私たちは相手の領域に踏み込みすぎ、
余計なことをして関係をこじらせてしまうことがあります。

夫婦であろうと、家族であろうと、私たちは所詮、別々の個人なのです。


「他人」という真実を受け入れる

これは、諦めや絶望ではありません。
また、どうでもいいと言っているのでもありません。

これは、より健全な人間関係を築くための真実の認識です。

自分と相手は違う。
自分と相手は別である。
自分は相手をコントロールできないし、その逆もまた然り。

だからこそ、相手の気持ちを完全に理解することなどできないし、
相手もあなたの気持ちを完全に理解することは不可能です。

では、どうすればいいのか?

わかろうとすることが大切なのです。
コミュニケーションが不可欠なのです。
思いやりを持ち、丁寧に伝える努力が必要なのです。

自分の感覚だけで物事を判断し、
それを言葉にせずに期待しても、
相手に伝わった時にどのように変換されるかはわかりません。
だからこそ、人間関係は時に面倒くさいと感じてしまうのでしょう。

そして、他人と深く付き合うことから逃げてしまう。
自分を守るために、自分が傷つかないために。

それでも、私たちは誰かに深く理解してほしいと願い、
自分の思っていることに共感してほしいと願います。

人は完璧ではなく、一人では生きていけないからこそ、
支え合っていくことが大切なのです。


察してアピールは「かまってちゃん」

魔法使いでもサイコパスでもない私たちにとって、
「言わなくても察して」というのは非現実的な要求です。
※相手を見ただけで、相手の気持ちをわからなければならない
 気付かない自分はダメだと自分を責めてしまうのも
 無茶苦茶ですね。

むしろ、もし本当に相手が何も言わずに自分の全てを察知するとしたら、
少し怖いと感じるのではないでしょうか(笑)。

しまいには、相手に気付かせようと
疲れたアピールやイライラしたアピールをするだけで、
言葉で伝えようとしないのは、ただの「かまってちゃん」です。

それは、自立した大人として、あまりにも格好悪い姿です。


健全な人間関係のために

自分と相手の間にしっかりと線を引くこと。
これが、健全な人間関係を築くための第一歩です。

相手はあなたではない。
相手の気持ちは言葉で伝えなければ伝わらない。

この当たり前のことを、私たちは常に心に留めておくべきなのです。

タイトルとURLをコピーしました